レブロ活用事例

BIM-FMの実現を目指して
デジタル活用による省力化・生産性向上の実践

2022年春、横浜駅からみなとみらい21への玄関口に「横濱ゲートタワー」がグランドオープンする。延床面積約84,000㎡の大型複合ビルには高層棟オフィスを中心として、シェアオフィス、クリニック、飲食物販テナントの他、プラネタリウムなどのにぎわい施設が併設され、横浜の新たなランドマークとして期待されている。本プロジェクトは鹿島グループが掲げる「鹿島スマート生産ビジョン」のモデル現場としても注目されており、「管理の半分は遠隔で」、「作業の半分はロボットと」、「全てのプロセスをデジタルに」の3つのキーワードを軸に、建設業の新たな仕組みづくりを行っている。今回は現場でのデジタル活用を中心に鹿島建設の小林氏、高砂熱学工業の亀山氏にお話を伺った。

横濱ゲートタワーCGパース

▲横濱ゲートタワーCGパース

スマート生産の最新現場における設備の取り組み

横濱ゲートタワープロジェクトのプロフィール画像

 “鹿島の中で最もスマート生産・省力化の取り組みを踏襲した現場に”という目標のもと始まったという横濱ゲートタワープロジェクト。本プロジェクトでは施工から維持管理まで、BIMを用いたトータルマネジメントを目指した取り組みが実施されている。

 「今回注力した取り組みの1つがフロア面積の大半に配置される天井内空調設備の『プレファブ・ユニット化』です」と説明するのは、当現場で指揮を執った小林氏だ。
「まず、プレファブ・ユニット化にあたり、当現場ではモジュール設計をオフィス基準階となる5~21階に対象を絞って計画しました。これは、同一設計での繰り返し作業が多く、計17フロアとボリュームがありましたので、施工合理化の効果が大きく見込めたことがポイントになりました。また、テナント対応による分割を事前に考慮し、空調設備のレイアウトをフロア当たり計5種類のモジュールに標準化したことで、製作はオフサイトの工場に移し、現場ではパターン化された組み立て作業のみとなり、全体的な省力化が図れました」(小林氏)【図1】。

【図1】基準階のモジュール設計

▲【図1】基準階のモジュール設計

 また、こうしてモジュール化された資機材には、出荷時にICタグ(RFID)が付与されたという【図2】。
「ICタグを付与した最大の狙いは、現場への納品から取り付け・試運転までを管理できるトレーサビリティの観点だけではなく、ファシリティマネジメント(FM)での活用を見据えた運用を想定したものでした」(小林氏)。

【図2】プレファブ加工から取り付けまでの流れ

▲【図2】プレファブ加工から取り付けまでの流れ

BIM-FM連携による更なる情報活用

 では、FMでの運用を見据えた仕組みとはどのようなものだったのか。具体的な取り組みについて小林氏に伺った。「BIMモデルを建物のデータベースとしてFMシステムと連携させる事で、様々なFM業務の一元管理が可能になると考えました。これまでは、情報毎の管理が必要になっていたため、確認作業にも時間を要していましたが、当現場ではFMまでの運用を見据えたモデルづくりに取り組んだ結果、竣工図や取扱説明書等の作成に付帯する書類の削減による省力化を実現しました」(小林氏)。

 また、本プロジェクトにおけるBIMのFM活用においては、早期にグループ会社である鹿島建物総合管理が参画したことで、管理側の視点がデータにも反映され、より現実的かつ実践的な運用に成功したという。

BIM-FM連携とレブロの採用

 目標に掲げていたBIM-FM連携を実現させるために、そのプラットフォームのベースとなるCAD選定の経緯について、小林氏は当時を振り返ってこう語る。

「現場が着工した際に、当社で取り組んだBIM案件『オービック御堂筋ビル』について調べてみると、 設備CADはレブロを使っていたことが分かりました。当時の担当者へレブロを採用した理由を確認すると、そもそも他のCADだとBIMモデルの作成も然り、FMの管理上必要不可欠となる属性情報の入力が不十分になる懸念があったため、“レブロを使わないとFM連携ができない”という現実的な課題があると言われました。とても説得力がありましたね」(小林氏)。

しかし、レブロの採用を決めた反面、現場の協力会社の協力無しでは難しい取り組みとなる本プロジェクト。当時の現場ではどのようなやり取りがあったのか、作業所長として着任した亀山氏にも当時の状況を伺った。

レブロの操作性

「他の現場を含めてレブロを使うのは初めての経験でしたが、噂では“BIM対応にはレブロが優れている”と聞いていたので、いつかは使うべきときが来るのだろう、とは思っていました。また、本プロジェクトではBIM-FM連携が取り組みの中核にもなっていたこともありましたので、使うのならこのタイミングだと直感したのはありましたね」(亀山氏)。

 初めて現場で使用することになったレブロに対し、期待と不安の両方があったと亀山氏は語るが、運用が進むに連れて実感されたメリットがあったという。

「今回のプロジェクトでは、2年で3現場ほどのレブロ経験があるオペレーター1名、レブロだけでなく他の設備CADも使った経験がほとんどないオペレーター2名の体制でスタートしました。他の設備CADですと、ゼロスタートのオペレーターには、慣れてもらうまで1現場くらいは経験を積んでもらう必要がありましたので、正直なところ厳しい状況になることを覚悟していましたが、今回は経験の浅いオペレーターも1ヶ月くらいでレブロを習得して、キャリアのあるオペレーターとほぼ同じスピードとレベルで作図できるようになっていました。懸念していたCAD習得がこれだけ早かったのは予想外でした。個人差はあると思いますが、レブロの直観的な操作性や機能性があってこそだと感じましたし、これなら今後も使い続けたほうが良いと実感しました」(亀山氏)。

BIM活用した施工フェーズのデジタル化

 では、レブロが採用された現場でBIMはどのように活用されていったのか。施工管理段階での取り組みについても小林氏に伺った。

MR技術の活用

「ホロレンズを使用したMRでの施工管理を建物管理と共同で行いました。現場ではレブロデータでの作業を基に実施してもらったのですが、かなり便利だったと感じています」(小林氏)。

 【図3】がその実例だ。ホロレンズを通して現実のビル内にBIMモデルがバーチャルに重なって表示され、「納まり及び施工進捗」や「設備情報」などが確認できる。これにより、「竣工後追加工事の天井内の納まり」の確認も可能となるため、施工段階だけでなく、FM業務にも役立つ仕組みであったという。

 「現地で目視するだけで設備情報を確認でき、嵩張る紙の図面や台帳を持ち運ぶ必要もなく、効率化に繋げることができます。また、BIMモデルの重ね合わせ表示は直感的でわかりやすく、図面や台帳を読むことに慣れていないキャリアの浅い人材や若年社員への教育・現場指導にも効果的でした」(小林氏)。

【図3】ホロレンズを通した視界(上) ホロレンズ着用画像(下)

▲【図3】ホロレンズを通した視界(上) ホロレンズ着用画像(下)

ICTツール連携と自動帳票化

 また、BIMの情報は施工管理の検査時にも活用されていた。工程内検査の「風量測定」や「水圧試験」では、現場管理アプリ『CheX』とレブロのデータを使って試験が行われたと小林氏は説明する。

「測定器で取得した情報は、BluetoothによりCheXに自動で入力される仕組みで、そこからあらかじめ設定した設計値に対する合否の自動判定を行い、判定結果を帳票作成に繋げることに取り組みました。図面の属性情報をそのまま検査の入力に利用できるので、誤入力などもなく検査を省力化できましたね」(小林氏)【図4】。

【図4】レブロのCheX連携を使った風量測定

▲【図4】レブロのCheX連携を使った風量測定

BIMモデルへの属性情報の付与

属性情報の運用

 施工・検査時に活用されたBIMモデルの属性情報は、どのように入力されたのか。その工程について亀山氏はこう語る。
「物流で使ったRFIDのタグ番号は、レブロで行うFM連携と同じタグナンバーとして入力しました。こうした属性情報はどのように追加するのがベストなのか、正直手探りなところもありましたね。基本的に属性情報を出力するときには、機器表を使用すると思いますが、機器表は“機器に対して掛ける三台”とか、何台あっても一行で処理されてしまうので、各機器を個別に属性番号で割り当てられない作りが一般的になっています。今回はそれを『一台につき一行で作成し、固有の番号で属性を割り当てる』と所内でルールを決めて情報を付与するようにしました」(亀山氏)【図5】。

 この取り組みについては、情報を入力していく作業は増えるが、施工時にも恩恵があったと亀山氏は続ける。「結果として機器表の枚数は増えてしまっても、一台一台に固有番号があるのでトレーサビリティが向上しました。これまでの機器表は、機器を個別に管理することができていなかったので、誤発注が起きることもありましたが、属性情報を付与したことでそういった点が改善され、管理面での品質向上にも繋がったことは、良い意味で今後にも活きると感じました」(亀山氏)。

【図5】属性情報

▲【図5】属性情報

系統管理という革命

 そのような背景の中、今回亀山氏が一番衝撃を受けたというのが、レブロの「系統管理」だったという。
「繋がり、系統を意識できるということは、一つの革新ですよね。レブロの『系統管理』の考えは、今まで使用してきたどの設備CADにも無いものでしたし、我々の業務フローでも、フロア毎に図面を描くよう役割分担をするので、フロアを跨いでも繋がる『系統管理』の概念が今までほとんどありませんでした。それが系統を意識することで、描き手は上下階の繋がりを意識しながら作図するようになりましたし、それによって変更や手戻り、修正作業も少なくなったことは大きな変化だと思います」(亀山氏)。

 続いて小林氏も語る。「系統管理の『系統』の考え方は、人それぞれのところもあるので、“ここの配管はこういう系統の作り込みにしよう”とか、何度も現場で打ち合わせを行いました。鹿島と高砂さんだけじゃなく、オペレーターさんも含めて、設備的な維持管理を意識した系統の付け方を共有して、足並みを揃えて進めていきました」(小林氏)。

 こうして整理された系統管理を使ったデータは施工段階でも利用され、前述の風量測定の際にも活きたと亀山氏は言う。「VAV、ダクト、器具などといった繋がりに『系統管理』を活用しました。恐らくこの系統管理がうまくいかないと、その先で求められる各ツールとの連携も難しくなると考えましたし、CheX連携の『風量測定』でもうまくいかなかっただろうと思います」【図6】。

【図6】系統管理

▲【図6】系統管理

BIM-FM連携の見据える先

「今回レブロを現場で使ってみて、やりたかったことが実践できなかったり、“これをやるならレブロの描き方をこうしないとダメだった”と、現場が終了してから出てくる課題もありました。水圧検査を例にしても、系統管理をより整理して、“この系統の水圧で”と検査を行って、それがアプリと連携できていれば、更に手間は減らせたのかなと感じます。ただ、今回BIM-FM連携を目指してやってきた結果として、そういった今後の活用での課題を見出すことができたので次はもっと効率的にレブロの強みも活かせると思います。また、これまでは各ツールの機能をどう使うかが課題になっていましたが、今後はそれらを組み合わせることで現場の生産性がより向上すると実感しましたので、レブロの機能開発はもちろんですが、ソフト同士の連携開発は、今後も積極的に続けていただきたいですね」(小林氏)。

 亀山氏も、施工管理ツールとの連携に期待を寄せた。
「今回は『CheX BIM』という新しいアプリを現場で使ってみたのですが、非常に見やすく、作業者のイメージが早くできて良かったですね。レブロで描いた設備のBIMモデルがタブレット上で確認できるので、『ここにダクトがあるから、壁をどうしようか』など、現場の若手社員やキャリアの浅い方にとっても効果的でしたし、設備が見える化されて、建築担当者にも好評で現場全体の作業が円滑になりました。今後もこういった連携機能が増えて、より効率良く現場が回せるようになったら良いと考えています」(亀山氏)。

 最後に、FMのために行っていたデジタル活用を施工段階でも活かすことの重要性について小林氏は語った。
「BIM-FMの取り組みは鹿島グループとしては重要なミッションです。しかし現場はFMのためだけに図面を描いているわけではないので、もっと施工にも役立つようにレブロをはじめとした各ツールを使いこなせるようにしたいですね。私たち現場の手間が2倍3倍に増えるだけで成果がいつも通りだったらもったいないですし、当現場での取り組みを今後の現場に展開することで、業界にも良い影響が与えられるのだろうと思っています」(小林氏)。

 

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CORPORATE PROFILE

横濱ゲートタワープロジェクト

鹿島建設株式会社

本社 東京都港区元赤坂1-3-1
設立 1930年
代表者 代表取締役会長 押味 至一
代表取締役社長 天野 裕正
資本金 814億円余
従業員数 7,989名(2021年3月末現在)
事業内容 建設事業、開発事業、設計・エンジニアリング事業 ほか

高砂熱学工業株式会社

本社 東京都新宿区新宿6-27-30
設立 1923年
代表者 代表取締役社長COO 小島 和人
資本金 13,134百万円
従業員数 2,116名(2021年3月末現在)
事業内容 空気調和装置および関連装置、機械の設計、監理、施工、保守管理、製造、販売ならびに付帯関連事業

 

2022.1.25


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