レブロ活用事例

レブロを核としたBIM活用の展開により
電気設備工事の現場だけでなく営業部門も活性化

 大阪・東京に本社を置く栗原工業は、電気設備を中心とした設備工事分野において100年余の歴史と実績を持つ専門工事業者である。創業当初より「技術のくりはら」と呼ばれ、常に最新技術を取り入れながら業界に確固たる地位を築き上げてきた。そのような背景を持つ同社だけにBIMの活用にも積極的で、2019年にBIM対応建築設備CADレブロを本格導入。電気設備業界の先陣を切ってBIMの本格的な運用を開始している。ここではレブロを核に展開する同社のBIM普及とその運用について、その推進を牽引する工事支援グループの小林氏と永山氏、そして営業部の玉井氏にお話を伺った。

新組織 工事支援グループの立上げとBIM導入

栗原工業様のプロフィール画像

 「当社がBIMの導入に取り組み始めたのは、2019年7月でした。この時、大阪本店内に工事支援グループという新組織が立ち上がり、これがBIM推進の牽引役を担うこととなりました(図1)。私が参加したのもこの時からです」。同社のBIM普及活動を牽引している工事支援グループの小林氏はそう語る。この工事支援グループのミッションはBIM導入だけでなく、新規プロジェクトの初期検討やICTの活用、教育資料の作成等々、多彩なテーマに基づいて進められる電気設備工事の現場支援に向けた取り組みである。

 実は小林氏自身、20年余の現場経験を有する技術者だったが、栗原工業は貴重な戦力である小林氏を現場から呼び戻して、この新組織に招集した。同社がBIM導入を始めとする工事支援グループの取り組みをいかに重視していたかが窺える。

 小林氏と共に行動することも多い営業部の玉井氏は語る。「大阪本店はゼネコンから受注する仕事が全体の約半分を占めています。そのゼネコンからの要望が近年は非常に高度化し、工事部単独では対応しきれなくなりつつありました。そこで、より客観的な立場でこれらの課題を捉え、スピーディに対応するために発足したのが工事支援グループです」。営業部門にとっても、同グループの存在は非常に大きいと玉井氏は言う。新規案件が動き始めると、同グループは早くから営業と共に行動し、発注者の要望に応えるべく初期検討や3D対応等に取り組んでいく。そして、必要十分な対応を済ませた上で、立ち上がった現場にその成果を引き渡すのである。そうした役割を担う同グループが取り組みの中核に据えたのがBIM導入だった。

図1 フロントローディング組織

▲(図1)工事支援Gと各部署との連携

 「ここ数年、BIMプロジェクトの依頼が増えていましたが、我々ではその要望に対応しきれない状況が続いていました。当社には設計部がありますが、部員には現場を経験していない技術者が多いため、納まりが分からず、BIMに対応しようにも詳細を描けなかったのです」(小林氏)。結果、そのまま現場が始まり、“納まっていない”、“対応が遅い”等の問題が多発したのである。現場を熟知した技術者が本気でBIMに向き合う必要がある……という認識が強まったのも当然の成り行きだった。「私たちは近い将来、確実にBIMの必要に迫られると確信しています」(玉井氏)。

 BIM導入の初動はBIMツールの選定から始まる。栗原工業でも検討し、まずはレブロで進めると決めてスタートした。「実は当社と懇意にしていただいているゼネコンがレブロユーザーということもあり、自然とレブロを主体に特化していこうという流れが生まれました」(玉井氏)。もちろん、実際にツールを使う小林氏らが比較検討した上での結論だったのは当然だろう。だが、このことが結果として彼らの歩みを大きく加速する。

図2の画像(屋上キュービクルまわり)

▲(図2)屋上キュービクル廻りのBIMモデル

 「従来使用していた汎用CADでは、機能不足の部分が多く、3Dのレブロを試してみようと数本を導入したのです」(小林氏)。そして、ちょうどそのタイミングでBIMプロジェクトの引き合いがあったため、小林氏はその対応を引き受け、工事支援グループが中心となってレブロによるBIMモデルなど制作を進行(例:図2)。現場の立ち上げに合わせ仕上がったモデルを提供した。そして、現場側は発注者の要望に応えながら、このBIMモデルを有効活用したのである。この最初のBIMチャレンジが成功したことから、この流れが同社のBIM導入段階における基本スタイルとなった。「レブロは他ソフトよりも3D部材を多く搭載しており、プレゼン資料が作成しやすい上、搭載していない部材も容易に作成できる。また、部材のCG色を簡単に変更できるため、見える化を実現しやすい」(小林氏)と同氏はレブロの3D入力のしやすさを強調した。

栗原工業標準をベースに社内普及を推進

 「BIMプロジェクトの引き合いが来たら、まず営業担当と共に工事支援グループが動きます。先方からデータを提供してもらい、打ち合わせを重ねながらレブロでモデルを作っていくのです。現状ではモデルのほぼ全てを当グループが制作しますが、半年ほど前から設計部や現場への普及と並行し、外注業者にもレブロを習得してもらっています。いずれは、他部門や外注業者にもモデルを作ってもらう計画です」(小林氏)。前述の通り、現場が立ち上がる前からこの3Dモデルを利用し、発注者や協力業者との打ち合わせや確認、さまざまな提案等も行っている。そして、精度の高いモデルを仕上げて現場に引き渡し、以降は現場でのBIMモデル活用が行われていく。もちろんBIM普及が始まって1年半足らずの現状では、BIMモデルの活用の度合いは現場ごとにさまざまだ。しかしながら、徐々にその活用の幅は広がりを見せており、その便利さに気付いて自らBIMやレブロを学ぼうとする現場技術者も増えている。

 「BIMプロジェクトの現場担当が決まったら、その担当者には現場が始まる前の1~2週間、当グループに来てもらい、レブロによるモデル制作などの流れを学んでもらっています」。そう語る小林氏によれば、現場担当者をBIMオペレーターの後に付かせ、“レブロで本当にモデルが描ける操作の流れ”を実体験させている。教育指導を担当し、レブロのヘビーユーザーでもある永山氏は語る。

 「モデル作りは基本2週間で習得できるよう指導します。ただ、その人の設備工事への理解や現場熟練度の違いで、特に序盤の習得に差が出ますね。やはり経験の差により図面の理解度も違ってくるのです。そこである程度、基本となる栗原工業流のモデル制作ルールを決め、これを正式標準として現場への浸透を図っています」。永山氏によれば、この「栗原工業標準」は、CAD創成期から長くCADオペレーションに取り組んできた永山氏が蓄積した「どうしたら使いやすいか」、「無駄なく修正できるか」、「効率よく図面が仕上げられるか」といった作図ノウハウと、他の工事支援グループメンバー、現場担当の意見を加味しつつ、レブロによるBIMモデル制作の実際を分かりやすくルール化したものだ(図3・図4)

図3)レブロ図面作成マニュアル

▲(図3)レブロ図面作成マニュアル

図4)レブロ図面作成マニュアル画像

▲(図4)レブロ図面作成マニュアル

 「この標準に沿って当初の1~2日は付きっきりのマン・ツー・マンで操作を学んでもらい、次にどんどん実案件で作図して、ルールを実践してもらっていきます」(永山氏)。このような実践的な教育によりモデル作りをマスターした技術者を、BIMプロジェクトに送り込む。そして、工事支援グループが作成したBIMモデルを彼らが活用することで、現場主体のBIMの普及が強力に 推進されるのである。もちろん現時点では、まだまだ導入メリットなど具体的な例を挙げることは難しいが、社内他部門においてBIM導入効果が徐々に顕在化し始めているという。

 「我々が電気設備系の専門工事業者として最も早くからBIMに取り組み、それもレブロに特化した形を徹底してきたことで、レブロを導入している多くのゼネコンを中心にBIMプロジェクトでの運用に確固とした流れができつつあります」。玉井氏のその言葉に、小林氏も頷きながら口を開く。「ゼネコンから提供される3DデータはIFC形式ですが、先方の設備担当の多くが既にレブロを導入しており、レブロの生データでやりとりできることは当然、非常に取り組みやすいわけで、“レブロで運用できるのはありがたい!”と感謝されることも多々あります」。つまり、レブロを使っていることが、それだけで有利に働くのである。加えて工事支援グループと共に進めるBIMを活用した提案や検討作業もまた、営業活動では非常に効果的だと玉井氏は感じている。

 「それらが他社との差別化となり、新規の受注にも繋がっていく好循環が生まれつつあります。BIMと工事支援グループは、営業にとっても強力な武器だと言えますね」。25年間営業職を続けている玉井氏にとっても、同社クラスの電気設備業者が特色を打ち出すのは、これまできわめて困難だった。「個性を打ち出し差別化を図ることで、それが我々の強みとして認識され、企業のブランディング力UPにも繋がっています」(玉井氏)。

 

BIMデータをいかに活かすか

 「大阪本店では、すでにBIMプロジェクトに対応できるようになりました。現場も既に2件完了し、数件が稼働中ですが、引き続き社内教育は注力していかなければなりません。まずは現場に加えて本店設計部への普及。レブロを使える人を1人でも多く育てます。さらに本社技術部とタイアップし、東京本店を始め他事業部に展開していくことも急務となっており、そのため教育スタイルも刷新中です」。この「刷新」とは、紙ベースだったテキスト類を教育動画へ置き換えていこうという動きである(図5)

図5)動画教育資料

▲(図5)動画教育資料

 前述の「栗原工業標準」をベースに、音声付きの制作手順動画を作成し、自社ネットワークのプラットフォーム上に掲載。全社員がいつでもどこでも視聴し、自習できるようにしようというのだ。「まだ試作段階ですが、5~10分程度の動画数本を今期中に仕上げます。きちんと視聴したかをチェックする機能も付与し、私たちが全国を走り回らなくても展開できるようにします」(小林氏)。一方、BIM普及活動における新たな柱となったのが、レブロを核としたBIM活用の研究である。

 「2Dの施工図面は、それを見て施工するためのものですが、BIMの場合はデータそのものに価値があると考えています。そこに入力された属性情報を活用(図6)することで、その価値はさらに高まっていくわけです」。そんな永山氏の言葉通り、工事支援グループではレブロの機能を生かした属性情報活用の取り組みも進行中だ。

図6)回路番号などの属性を付与した電気図面

▲(図6)回路番号などの属性を付与した電気図面

「今取り組もうとしているのは、レブロで描いたモデルを活かした現場管理ですね。たとえば天井プロットを描く時に照明器具の照会記号や型番等の属性情報を入力しておき、それをいつ納入してほしいとか、納品されたらチェックするとか……Excelデータリンク※で活用できないか等を検討中です。既に同じ手法で動力盤等の盤管理を行なえるようにしましたし、幹線系統図も属性情報を利用して変更対応の自動化を進めています」(小林氏)。※Excelとレブロの双方向リンク。どちらからの編集も反映される機能(一部属性は片方向リンク)。

 いずれはExcel側で配線サイズを変更したものをレブロ側の配線サイズに反映できるようにしたいと小林氏は考えている。しかも、こうした「現場での使い勝手」を反映させた、レブロの機能強化のアイデアを逐次NYKシステムズに届けており、バージョンアップ時にそれらの要望が反映される機会も増えているという。

 「ここ最近で一番多く要望を出したのは2D作図に関するものです(図7)。3Dに特化したレブロは3Dを描きやすく、モデルも作りやすいですが、現場で職人が見るための2D施工図もまだまだ必要なのです」と永山氏は語る。そんな同氏も2D図面を別のCADで描き直す手間は掛けられないため、これもレブロで描いている。「私たちが出した要望も、次期バージョンでかなり反映されると聞きました。バージョンアップがとても楽しみです」(図8)

 もちろん、レブロへの期待は小林氏も同様だ。「2~3年後には、幹線計算や耐震計算もレブロに機能実装するのではないでしょうか。とにかくレブロで描いておけば、そのデータを活かして現場管理も完結できる……という世界です。今は無理でも、それくらいの将来像を目指すべきだと考えています。今後も期待したいですね」。

▲(図7)開発要件ノート

図8)NYKシステムズ 開発との意見交換

▲(図8)NYKシステムズ 開発との意見交換

CORPORATE PROFILE

栗原工業株式会社

本社 大阪本社(大阪府大阪市北区)、東京本社(東京都港区)
創業 1919年7月
代表者 代表取締役会長 栗原 信英
代表取締役社長 横井 正温
事業所 大阪本店、東京本店、横浜支店、中部支店、大阪南支店、神戸支店、中国支店、四国支店、
九州支店、工務本部、シンガポール支店
従業員数 1,134名(2019年9月現在・海外含む)
受注高 約930億円
事業概要 電気設備、計装、情報通信、空調衛生、防災防犯、土木 他

 

2021.1.21 2021.12.6改


※「Rebro®」は株式会社NYKシステムズの登録商標です。 その他記載の商品名は各社の商標または登録商標です。
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※本事例で記載されている内容、部署名、役職は取材時のものです。